皆さん、こんにちは！国際政治や経済のニュースを見ていると、時々「バーネット法（Barnett Formula）」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。特にイギリス国内の財政や分権に関する話題では、この法律が常に中心にいます。
「法」と聞くと、なんだか難しそうですよね。「イギリス国内の地域ごとの予算配分を決めるための、複雑な計算式」と聞けば、さらに頭が痛くなるかもしれません。
でも安心してください！今回は、このバーネット法が一体どのようなもので、なぜこれほどまでに重要かつ論争の的となっているのかを、私なりに分かりやすく、そして親しみやすい言葉で徹底的に解説していきます。
1. バーネット法って、そもそも何？
バーネット法とは、イギリスの中央政府（ウェストミンスター）が、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドといった「分権地域」に対して公的支出の増額分を配分するためのメカニズムです。
簡単に言えば、イングランドで特定の分野（医療や教育など）の予算が増やされる決定がされた場合、中央政府はただちにバーネット法に基づいて、他の分権地域にも相応の予算増額分を割り当てるのです。
1-1. 誕生の背景：緊急の必要性から生まれた「暫定措置」
この公式が誕生したのは1978年。当時の労働党政権が分権化（Devolution）の議論を進める中で、スコットランドやウェールズへの予算配分ルールを緊急に定める必要に迫られました。
考案したのは、当時の大蔵省首席担当官だったジョエル・バーネット（Joel Barnett）氏です。皮肉なことに、彼はこの公式を「複雑な交渉や政治的な駆け引きを避けるための暫定的な解決策」として設計しました。
ところが、この暫定措置とされた公式は、その後数十年にわたり、イギリスの地域財政の根幹を定めるルールとして機能し続けることになったのです。
2. バーネット法の計算メカニズムを紐解く
バーネット法の最大の特徴は、そのシンプルさにあります。複雑な「地域ごとの真のニーズ」や「貧富の差」を考慮せず、たった二つの要素に基づいて配分額を決定します。
計算の基本となる3つのステップ（バーネット・トリガー）
新しい支出が決定された際、配分額は以下のステップで決定されます。
支出の対象分野の特定 (Comparable Services): 医療、教育、交通など、分権地域に権限が移譲されている分野の支出であること。
イングランドにおける支出の増加額の特定 (New Spending): 中央政府がイングランドに対して新たに投じる金額。
人口比率の適用 (Population Share): 分権地域の人口が、イングランドを含むイギリス全体の人口に占める割合を掛ける。
具体的に見てみましょう。
項目 イングランドにおける新規支出 スコットランドへの配分
1. 支出増額 100億円 –
2. 人口比率 (例) – 約8.2%
3. バーネット配分額 – 100億円 × 8.2% = 8.2億円
この8.2億円がスコットランドに渡され、スコットランド自治政府は、この金額を自分たちの判断で、教育に使うことも、医療に使うこともできます。これが「バーネット配当（Barnett Dividend）」と呼ばれるものです。
3. なぜバーネット法は賛否両論なのか？
暫定的なルールが半世紀近くも使われているのには、もちろん理由があります。しかし、同時に大きな批判も浴びています。
3-1. 評価される点（メリット）
政治的な摩擦の回避: 毎年、各地域が中央政府と「いくら欲しいか」で交渉する手間と時間を省き、政治的な対立を防ぐことができます。
透明性と簡潔性: 誰でも計算式が理解できるため、分配のプロセスが透明です。
柔軟性: 分権地域は受け取った予算を、イングランドと同じ分野に使う義務はなく、独自の優先順位に基づいて支出できる（「裁量権」）。
3-2. 批判される点（デメリットと論争）
バーネット法に対する主な批判は、「公平性」「必要性」の二点に集中します。
A. ニーズの無視
この公式は、過去の支出水準や、各地域の地理的条件（人口密度、高齢者人口など）による実際のサービス提供コストの違いを一切考慮しません。
B. 「バーネットの帰結」（Barnett Consequence）
この方式が長期間適用された結果、特にスコットランドや北アイルランドは、人口比率以上に高水準の公的支出（ヘッドルーム）を維持する傾向が生まれました。これは、イングランドの人々から見ると「不公平だ」という批判につながります。
「バーネット法は、その簡潔さゆえに長年重宝されてきましたが、現代のスコットランドやウェールズが抱える真の財政ニーズとは乖離しており、もはや歴史的な遺物となりつつあります。経済情勢や社会状況に応じた真の公平性を議論する時が来ています。」
— 匿名のイギリス財政専門家
3-3. 重要な概念：コンバージェンス（収束）
バーネット法の興味深い点として、理論上は「コンバージェンス（収束）」が起こるとされています。これは、バーネット法が「増額分」のみに適用されるため、もしイングランドの年間支出が毎年増え続ければ、いずれは各地域の支出水準が人口比率に基づいて均一化していく、という考え方です。
しかし、実際にはそのスピードは非常に遅く、長年の「ヘッドルーム」は依然として残っています。
4. 時代の変化とバーネット法の未来
近年、バーネット法への依存度は少しずつ変化してきています。分権地域、特にスコットランドは、独自に税率を決定する権限（例えばスコットランド独自の所得税）を徐々に手に入れています。
これはどういうことか。
中央政府からの交付金（バーネット配分）だけに頼るのではなく、地域住民から徴収した「自分たちの税金」で財源の一部を賄えるようになった、ということです。
リスト：バーネット法の適用から外れつつある分野
独自の収入源: スコットランドが独自に徴収する所得税収は、バーネット法の対象外です。
インフラ投資: 大規模で特定地域に利益をもたらすインフラ投資は、バーネット法を適用しないケースが増えています。
特殊な合意: 近年、ウェールズやスコットランドに対して、特定の財政権限を与える際に、バーネット法を修正したり、代替の計算式を適用したりする「バーネット・フロム・バーネット」（Barnett-from-Barnett）と呼ばれる調整が行われることがあります。
これらの変化は、イギリスの財政制度が、単なる「暫定措置」だったバーネット法だけに頼るのではなく、より複雑で各地域のニーズを反映した形へと進化しつつあることを示しています。
5. FAQ：よくある質問にお答えします
Q 誰がバーネット法を適用しているのですか？
A イギリスの中央政府（財務省）が、中央政府の支出が増額されるたびに適用します。
Q バーネット法はイギリスのすべての予算に影響するのですか？
A いいえ。分権地域が独自の決定権を持つ分野（医療、教育、警察など）の増額に対してのみ適用されます。国防や外交など、中央政府が一元的に扱う分野には適用されません。
Q バーネット配分を受け取ったお金を、分権地域は自由に使えるのですか？
A はい、原則として自由に使えます。イングランドが教育に予算を投じたからといって、スコットランドが教育に使う必要はなく、医療や交通インフラに回すなど、裁量権を持っています。
Q バーネット配分額は人口の変化に合わせて変動しますか？
A はい。バーネット法では定期的に見直しが行われ、最新の人口統計に基づいて配分比率が調整されます。
まとめ：バーネット法が示すイギリスの「複雑さ」
バーネット法は、一見するとシンプルな計算式ですが、その裏側には、イギリスの歴史的な分権化の経緯、イングランドと周辺地域の財政格差、そして政治的な緊張関係が複雑に絡み合っています。
「交渉の煩わしさから逃れるために導入された暫定措置」が、数十年にわたってイギリスの国のかたちを規定してきたというのは、非常に興味深い事実です。
私たちはこの公式を理解することで、イギリスの地域間の財政的な議論が、いかに「公平性」と「必要性」という二つの軸で揺れ動いているのかを知ることができます。
イギリスの政治経済ニュースに触れる際は、ぜひこのバーネット法の存在も頭の片隅に置いてみてください。ニュースの理解がきっと深まるはずです！